NTTドコモdカードGOLDの事例を通じた新規事業の進め方

企業は成長を続けるために新規事業に取り組む必要がある。既存事業の拡大に加えて、経営資源や強みを考慮した新たな事業を見据え、将来的な収益源を確保するための挑戦を行う。しかし、新規事業の成功率は非常に低く、成功するのは全体の10%程度とも言われている。racco代表の横田はNTTドコモ在籍時にdカードゴールドの新規事業を立案、当初黒字化が困難といわれていたカード事業において顧客やサービスの再定義を行い社内外の関係各所を巻き込みプロジェクトを推進し、会員数1,000万にまで事業を成長させた。そうした経験を活かし、新規事業を進めるうえでのポイント、進めていく上での課題の乗り越え方など、新規事業にこれから携わる方や既に携わっている方へのアドバイスとして、インタビューの様子をお伝えする。

アジェンダ

  • なぜ新規事業が必要なのか?
  • NTTドコモdカードGOLDの事例を通じた新規事業の進め方
  • 新規事業を推進するうえでのポイント(これから新規事業に携わる方へ)
  • すでに新規事業に携わっている方へのポイント

なぜ新規事業が必要なのか?

企業はなぜ新規事業をするのでしょうか?

企業が新規事業に取り組む理由は、成長の必要性があるからです。現在の事業の拡大も重要ですが、経営資源や自社の強みを活かして、新しい事業を見据えることが求められます。このようにして新たな収益を高める手段として新規事業を考えることは企業が生存していく中で不可欠であると考えます。

新規事業の成功率は?

新規事業の成功率は非常に低いとされています。 ユニクロの柳井氏が『一勝九敗』という本を出しているように、成功率が10%でも驚異的だと思います実際、多くのプロジェクトは成功せずに終わるケースが多く、成功率は数%にとどまることが普通なのではないでしょうか。

NTTドコモdカードGOLDの事例を通じた新規事業の進め方

数年で1000万会員を獲得したdカードGOLDを事業立案した背景は? 

はじめにドコモにおけるゴールドカードの流れをご説明すると、ケータイファン向けに2012年にリブランディングしたのが、DCMX GOLDで、dポイント事業立ち上げに伴い、サービス強化として2015年12月にDCMX GOLDをdカードGOLDへモデルチェンジしました。DCMX GOLD時代から事業の不振が続いており、5年間でわずか1万人の会員しか獲得できませんでした。どうすれば事業を改善できるか?を検討し、様々なアイデアを出す中でロイヤルティ強化(継続課金・多くの支持)を狙うためにゴールドカードの年会費を収益源にすることに着目しました。なかなか黒字化しない状況でしたので大前提として「儲かる事業にすること」を軸に、先行投資に重きをおいて時間をかけて投資回収する形にせず、年会費をしっかりいただく代わりに魅力的なサービスを提供する形にし、着実に儲かること、ここを大事に事業立案をしました。

そもそもdカードGOLDとは?

NTTドコモが発行するクレジットカード「dカード」の上位版。年会費10000円、携帯代の10%相当のdポイントがたまります。カードの利用金額に応じた携帯購入の割引クーポンを進呈したり、携帯にまつわる事故補償が手厚いカードで、携帯好きに持ってほしいカードとしました。

当時のゴールドカードを取り巻く環境は?

その当時、ゴールドカードはカードをたくさん利用してくださるお客様向けのステータスが高いカードと、券面だけ金色で年会費無料や廉価なカードなど、様々なカードが乱立していました。お客様からするとゴールドカードを持つ意味がよくわからないという状態でした。言い方はあまり良くないのですが、見栄を張るためだけのカードだったのが実態なので、ゴールドカード会員をたくさん取ろうという発想があまりなかったというのがカード業界の全体の動きでしたので、そこにあえて、今でこそコスパなどと普通に言われていますが、コストパフォーマンス重視で、ステータスとかそんなの関係なく、ただ携帯電話が好きな人にこそ持ってもらいたいというコンセプトで作ったというところが特徴ですね。

推進する上での課題は? 

NTTドコモは当時5000万人以上の携帯電話契約者を抱え、巨額の収益を上げていたため、ゴールドカード事業に対する理解や協力を得ることが非常に困難でした。社員間でもゴールドカードの存在がほとんど認知されていない状態であり、事業推進のための社内協力を取り付けることが大きな課題でした。新規事業としてゴールドカードを成功させるためのポイントとして、まず事業を必ず収益化するという目標がありました。そのため、ドコモの携帯電話事業とのシナジー効果をどう高めるかが重要なテーマとなりました。また、プロジェクトメンバー全員が同じ目標に向かって取り組むことを重視し、団結力を高めることが成功の鍵と捉えていました。

プロジェクトが成功したと思える点は?

議論に妥協しないこと。ゴールドカードへの考えが各人まちまちななか、なあなあにしなかった。徹底して議論を尽くし、プロジェクトメンバー全員の目線合わせを行いました。 

メンバーは?

リニューアルのプロジェクト発足時は、私の他に部長2、課長2、担当4、計9名というプロジェクトでした。

失敗点(改善点)は?

議論に時間をかけすぎてしまった。結果的に1年半かかった。エンド(ローンチ)を決めきれなかったのでそうなってしまったと思います。ローンチ日を決めて逆算してやるべきことを進めていく手法もあったと今になっては思います。

そのほか苦労話や工夫は?ここだけの話もあれば

ドコモのお客様5000万人、数億円のマーケットに対してたった10000人なのになぜ今更ゴールドカードなのか?といった反応が多く、相談もけんもほろろでした。 ただ、「ここまで逆にレアなカードホルダーっていますか?ドコモへの貢献度合いという観点では、買い替えサイクルが早い、付帯サービス利用率高い、これはまさにドコモのロイヤルユーザーであり、そうしたお客様こそ大事にしないといけないのでは?」という語りかけをしていき協力を取り付けていきました。

社内に起きた変化は?

ゴールドカード会員が増えて一番大きかったのは、当時は携帯電話に2年縛りというものがあり24ヶ月経過すると、他のキャリアにポートアウト、解約して移転しちゃうという流れがあったのですが、それがかなり多くて24ヶ月で多くの人が他社に乗り換えてしまう傾向がありました。ところがゴールドカードを持っていると9割方が残ることがわかり、これが携帯電話事業にとってすごく解約抑止効果があるということが明らかになってから、社内的にゴールドカードをもっと持たせようという話になったのが大きい変化です。あとは実務的に言うと、本当に成果が出て、事業も拡大をしていくと、今まで相談に行っても全く相手にされなかった人たちから、逆に相談が来る。一緒にやりましょうよとか、ぜひぜひという感じで、もうあの時は全然相手してくれなかったのになって思いながらも、まあ同じ会社なので意地悪はしなかったですけど、やっぱりあの勢いとか、その勝ち馬に乗るというか、勝てば官軍という感じで、そうですね、事業の拡大とともに社内のプレゼンスがすごい上がっていって、やりたいことがもっとやりやりやすくなったというのが大きいですね。

今後の課題は?

おかげさまで所有は1000万人を超えて、日本の人口からすると単純に言う10人に1人。クレジットカードが持てる年代を踏まえると、大半の人がもう既に持っている状態になっているので、ここから先、さらに会員数が大きく増えるっていうことは、単純に考えて難しいだろうと思います。この先、本当にこのゴールドカード事業をどうやって拡大するのかというのが、一つ大きな課題だと思います。あとこれはクレジットカードあるあるではあるのですが、お客様の生活スタイルが変わると、クレジットカードも切り替えられる。例えば、飛行機をよく乗るようになると飛行機のカードを持ったり、引越した先でイオンが近くにあったらイオンカードを持ったり、楽天で買い物をいっぱいするから楽天みたいな感じで、お客様は日々の生活スタイルに合わせてクレジットカードを持ちます。そうしたライフスタイルへの変化対応にどこまで対応できるのかというのが、大きい課題だと思いますね。

新規事業を推進するうえでのポイント(これから新規事業に携わる方へ)

一般的に新規事業を進める際のポイントを教えてください。

今日がそのサービスのローンチの日だったらということをすごく考えます。というのは、やりたいこととかはたくさん思い浮かびますが、これが本当に実際にローンチして、どんなふうにお客様の目に留まり、それを使う人がどのようにこれを触るのか、使うのか。さらに言うと、これを使うときにユーザー登録ってどうするのだろうみたいな話とか、申し込みをどんなふうにするのだろうっていうような、こういう本当の実体験レベルまでを想像する。本当に最終形ですね。最終形をすごく意識します。そうしないと、何が進める上での課題が何なのかがわからないですし、大事にしなきゃいけないポイントも見えてこない。やりたいことファーストだと、どうしても自分にとって都合のいいことばかり考えちゃうんですよね。そういうよりリアルにサービス開始日起点で想像すること新規事業を成功させるポイントの一つかなと思っています。

新規事業を進める上でやらない方がいいことはありますか?

あんまり否定的にならない。アイデアを出すところは否定的にならないことですね。既成概念にとらわれないようにすることではないでしょうか。

新規事業を始める際の最初のステップ、その次にすることアドバイスをお願いします。

最初のステップは、まず自分の頭にあるアイデアをとにかく紙に起こすとか、パワーポイントでも手書きでも何でもよいのでアウトプットすること、とにかく頭の中にあるものをすべて出し切る。思いつくことを全部出し切るっていうのを、一度やるのがいいかなと思います。で、じゃあそれを実現するためにはどうしたらいいのだろうと、発想が膨らんでいくので。まずは凄く幼稚とか馬鹿げたアイデアかもしれないですけど、頭に思い浮かんでいることを全部洗い出すっていうのが、最初のステップとしてはいいかなと思いますね。

その次にすべきことはすごくざっくりでいいので、私はフィージビリティスタディをやりますね。結局、全然皮算用でいいのですけど、この事業をやったらどれくらいのお客様が集まって、その人からどれくらいお金がもらえて、結局売上がどうなるのか、みたいなのがないと、かけるお金も見えてこなくなるので。というのとあとは、ここはもしかしたらその経験が必要かもしれないですけど、どれくらいお客様を集めるみたいなところなんかは、そこで難易度がやっぱり決まってくるので、この金額だったら、こんなに集まらないかもとか、 そこら辺をこうやっぱり自分で客観的に考えたらいいなと。見ていくために私は結構そのすぐにフィージビリティスタディをしますね。

新規事業に携わる人へ、今後に向けてメッセージをお願いします。

パナソニックの創業者の松下幸之助さんの話ですが、会議で8割ぐらいの人が反対する方がうまくいくという話があります。新規事業を考えるときは反対意見が多いのが実際です。自分はできると思っても悲観的に言われることが多いと思うのですが、そんなもんだというふうに思って、あんまりその人からいろいろ言われたことに気にしない方がいいと思います。逆にすごく応援をしてくれたり、それいいね絶対やろうよっていうものほど逆に落とし穴があったりします。なんで他の人はこれをやらなかったのだろうっていうところに目を向けて、やっぱり常に客観的に見る癖をつけた方がいいんじゃないかなっていうところが、これから新規事業に携わる方に言っておきたいことかなと思います。

すでに新規事業に携わっている方へのポイント

新規事業立案後におけるポイントは?

新規事業の立ち上げは非常に手間と時間がかかります。日々の仕事に追われてしまいがちですが、大事なのは想定した通りに話が進んでいるのか?ちゃんとチェックして自分たちが思い描いたシナリオ通りに進んでいるか進んでいないかを確認することが大事です。忙しいとそこをちゃんと見る余裕もなかったり、とりあえずなんか立ち上げる等あるかと思います。よくありがちなのがやることが目的になってしまうということがあるので、今自分が立ち上げたものが本当に元々やりたかったものとか狙っていたものなのか、なんか話の流れ的にやらざるを得なくなっている…、という場合は注意した方がいいと思いますね。

新規事業に携わる企業や団体から寄せられる問い合わせにはどのような課題が多いか?

自社の強みの再定義に関するものが多いです。事業の成功確率を上げるには、自社の強みを生かすのが最善だと思うのですが、本当の自社の強みは何か?というところにあまり気づいていない、定義されていないケースがあり、そこに関して相談をいただくことが多いです。それを受けて私なりにその会社様の強みを定義し今後の展望を提案するのですが、やっぱりそれは儲かるの?かという話になると、やってみないとわからないっていうのが正直なところがあるので、そこはある程度のリスクを取る覚悟でやってもらわないとうまくいかないとは思いますね。結局やれない理由とかダメな理由はみなさんすごく考えて挙げられます。新規事業はコストに合わないと言われるのですが、逆にそこまで把握されているのであれば改善策はあるのでは?とも思うので、どこかで覚悟を決めてやるというのが大事かなと思いますね。

この新規事業は失敗しそうだな、あるいは失敗しているなと思える共通の点などはありますか?

日々の業務に追われて、その新規事業でも結局今どういう状況なのかというのを客観的に見れていない。ストックビジネスの話で言うと穴の開いたバケツに蛇口ひねって水を入れて溜めていくような絵があると思うのですけどお客様がどの経路で来られて、どのように利用していて、どういうお客様が離脱していっているのか、という全体フローがちゃんと把握できていないような事業は、うまくいかないです。一連の流れが、どこまできちんと見える化されているか?できているところはうまくいくし、できていないところはやっぱり失敗しちゃうなというふうに思いますね。

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